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「茉莉ちゃん、これ見て。」
「何?」
「画家の友達ができたんだ。」
「どうやって?」
「大学の後輩が画家になってた。」
「へぇーすごいね。」
「興味なさそうだね。」
「興味なーい。」
「芸術に目を向けようよ~。教養付けよーぜぇ?絵の一つにも感動できないとお嫁に行けないぞ。」
「じゃあ行かないもん。」
「またぁ~。」
「本当に。」
「好きな奴とかいないの?」
「いない。…一昨日、クラスメイトにコクられたけど。」
「おっ。いー度胸だな。どんな奴。」
「軽い感じ。でも女子には人気あったんだよ。断ったって言ったら茉莉子は理想が高いって言われた。にぃを基準にしちゃダメだって。」
「俺?茉莉ちゃんの理想は俺か。」
「うん。私にぃが好きだよ。」
「あーもうっ。茉莉ちゃんはいい子に育ったなぁ。」
修司は嬉しそうに笑い、茉莉子を抱き締めて頭をくしゃくしゃになでた。
「お嫁に出す時マジ泣いちゃうなぁ。」
「大丈夫。お嫁なんか行かないから。もし行くことななってもにぃも連れてく。」
「あはは!それいーなぁー。」
「にぃの老後は私が面倒見るから安心して。」
「そりゃあ楽しみだぁー。」
あー画集の記憶がない…。
「ねぇ、これ。」
リビングのソファに座りTVを見ている悠の隣に座り茉莉子は画集を差しだす。
「あぁ…。」
「絵、描く人…?」
「まぁ…。」
「手は?」
「…。」
悠は下を向く。前髪で顔が見えなくなる。
「もう、描けないってことですか?」
「いや…その…。…ごめん。」
悠は顔を手で覆い、観念したように謝った。
「ごめん。おれ、実はさ…。」
「手、動くの?」
「いや、手はマジ…。けど…。」
「?」
「…左利きなんだよね。…だから、別に…日常生活にも仕事にも支障は全然ない。」
「…。」
「…ごめん。」
茉莉子は修司の部屋に逃げた。
悠は追い掛けて部屋に静かに入ってくる。
「ごめん。騙してて…。すぐに出ていくから。」
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