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にぃが死んだ。 茉莉子はハナ壇の前に座り、写真のなかで笑っている修司をじっと見る。 放心…。 にぃ…お兄ちゃん…? 「茉莉子ちゃん。ちょっといいかな。話あるんだけど。」 「はい。」 そろりと入ってきた親戚のオバサンに対して茉莉子は背筋を伸ばして芯の通った声で返事をした。 「今こんな話、悪いとは思うんだけど、今後茉莉子ちゃんはどうしようと思っているの?」 「一人で大丈夫です。」 「え…。」 「もう大学生ですよ?大丈夫です。心配しないでください。」 茉莉子はほほえんでオバサンに言う。 強く、強く。気持ちを強く。…にぃ。 オバサンはホッとした表情を見せる。 佐藤修司 享年28歳 キョウダイだけで暮らしていたマンションに一人。 修司が銀行に就職してから約6年間二人で暮らしていた部屋。 今にも部屋のドアを開けて修司が出てきそうだ。 振り向いて、にぃ。って呼びそうになる。 ふと、にぃ、まだ帰って来ない。って思って、あぁ、死んだんだ。って気付く。 人はあっけない。 父親は7年前、茉莉子が小6の時に交通事故で死んだ。 その半年後、母親が蒸発した。「修司、茉莉子をお願いね。ごめんなさい。」そう、書き置きをして。 朝起きると茉莉子には修司しかいなくなっていた。 まだ大学生の兄。 でも茉莉子にとっては唯一の頼れる大人。 母親がいなくなってからずっと、茉莉子は修司に育てられた。 親代わりだった兄が今、病死。 人はあっけなく人を捨てて、死んでしまう。 「茉莉ちゃん。もし俺に何かあったらさ。」 丁度、恋人が死ぬドラマを見ていた時だった。 「俺が死んじゃったらさ、…どーする?」 「困る。…生活に困る。」 「ヒドイッ。」 「だって。…イヤな話しないでよ。」 「だね。」 修司はしょぼんとした茉莉子の頭を優しく撫でる。 もし、死んだら…。 本当に死にやがったあのヤローッ。
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