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キャップを被った男が部屋の中に一歩ずつ入ってきた。 恐い、誰…。 男が押さえていたドアが閉まろうとした時、茉莉子はハッとした。 ドアが勢い良く開き、跳んできた蹴りがその男を仕留めた。 「茉莉子っなんか縛るヤツ!ヒモ!」 蹴りの主は倒した男の手を背中で捻り上げる。 「早くっ!」 茉莉子はその怒鳴り声でハッとして立ち上がる。 急いでガムテープを手にしていた。 引っ越し前でガムテープが手近だった。 「何でガムテープなんだよっ!」 「う゛あぁぁぁぁっ!」 怒鳴り声とうなり声をあげてキャップの男が上の華奢な男を下から返す。 「逃げろ!」 キャップの男が茉莉子を捕らえようと目を見開き手を伸ばす。 いつ出したのか、右手にはナイフを持っている。 逃げろと怒鳴られても茉莉子は向かってくる物への恐怖で目をつぶってしまう。 来るって思った瞬間、茉莉子は誰にも何も触れられなかった。 静かにゆっくり茉莉子が目を開けると目の前でキャップの男が後ろから華奢な男にはがいじめにされていた。 血が床に落ちる。 華奢な男はナイフの歯を握って止めていた。 華奢な男の顔は一つも歪まない。 キャップの男は…ニヤリとした。 「バーカ。」 そう言って華奢な男からナイフの刃を引き取った。 血が更に増える。 それでも華奢な男の表情は静かだった。 この二人、おかしいっ。 笑う男と、顔色を変えない男。 その時、サイレンが聞こえた。 「チッ。」 キャップの男は茉莉子を突き飛ばして玄関を出ていった。 「…。」 華奢な男は血の手を片方の手で押さえると、しゃがみ込み、伏せた。 「だ…大丈夫ですか?」 「警察…来た…。」 「呼んだのって……。」 「…俺。…変な奴、入っていったから…良かった…恐かった…。」 「大丈夫ですか?」 茉莉子は膝をついて目線を同じにする。 すると華奢な男は茉莉子をみて静かに微笑んでみせた。
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