185人が本棚に入れています
本棚に追加
でも勇気がない。
もちろん、世の中で頻繁に起きている出会い系サイト事件の危険は、さとしとの間ではあり得ないのは確信していた。
たかがメール、されどメール、ユウはさとしを信じていた。
信じられる要素がさとしにはあった。
でもやっぱり勇気がない。
会ってしまって、この関係が壊れるのが怖い。
時を同じくして、さとしもユウと同じ事を考えていた。
『会ってみたい。ユウさんの生の声が聞いてみたい』
でも、この一言が言い出せなかった。
言って引かれるのが怖い。この関係が壊れるのが怖い。
ある日、さとしの彼女が自殺を図った。
幸い命に別状はなかったが、彼女は入院をした。
さとしは自分のせいだと、自分を責めた。
そんなさとしにユウは初めて、自分の携帯メールアドレスを教えた。
『しんどかったいつでもメールしてきて。
パソコンだとタイムラグがあって、リアルタイムでさとしを元気付けられないのが辛い。』
しばらくして、ユウの携帯に知らないアドレスからメールが入った。
すぐさま、さとしだとわかった。
『ありがとう。ユウさんのメアドは俺の御守だよ。』
こうして、2人はパソコンの中から抜け出した。
携帯の中で会う日々。
いつの間にかお互いを呼び捨てで呼ぶようになっていた。
そんな日々が続き、数ヵ月後。
『会いたい。
突然切り出して、ユウに嫌われるのは覚悟してる。
でも、自分の気持ちは正直に伝えたかったから。』
さとしからのメール。
『私はさとしを嫌わないよ。とっても嬉しい。ありがとう。
でも、私こそ実際会ったら嫌われちゃうかも。』
そんなやり取りから、お互い会いたい気持ちに嘘は付けず、
勇気を出して、実際会う日が決まった。
何の縁か、さとしとユウの家は車で20分程度、同じ町に住んでいた。
二人は、その町で1番大きな公園の1番大きな木の下で待ち合わせをした。
最初のコメントを投稿しよう!