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潔癖すぎるくらいに白く、眩暈がするくらい強い消毒液の臭う病室。ここと同じところを律(りつ)は知っていた。けれど、あそこはここよりもっと脆い場所だ。触れてしまえば崩れてしまうくらいに。泣きたくなるくらいに。
無意識に率は手にしていた花束を握り締めた。
この病室の主人は大きなベッドの上で一人、途方に暮れていたが率に気がつくと、いつもそうだったようにへらへらと笑い出した。それが義務でもあるかのように。
「その花、くれるの?」
首のないマネキンのようにショーウインドウに飾られるわけでもなく、指定された服とポーズをとらされた可哀相な香子の唇は興ざめするくらい鈍い色をしていた。
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