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「君は、人の形をした氷のようだね。それも混じり物の無い一等に透明な氷だ」
彼は時々、突然独り言のように語りかけてくる。
何の脈絡もなく話し始めるものだから初めは戸惑ったけれど、今は特に疑問にも思わなくなった。
「わたしはそれほど冷たいつもりはないのだけれど」
よくよく考えてみると彼はいつもただ椅子に座っているだけで、わたしに触れたことがなかったように思える。
「気になるなら、触ってもいいのよ?」
頬を差し出すと、彼はベッドに座るわたしの前に膝を立て、手を延ばしてきた。
触れた彼の手は案外に大きく、そして熱い。
「それほど冷たくはないんだね。雪のように白くて綺麗だから、もう少し冷たいかと思っていたよ」
彼は誉め言葉をしれっとした顔で言うのだ。
「おや、雪に薄紅色が付いたね」
などと言うと、指が這うように蠢き始める。
わたしは焦ってしまい、思わず彼の手を掴んでいた。
「もっ……もう、良いでしょう?」
「ああ、そうだね」
彼は何事もなかったかのように椅子に座り直し、窓から外を眺め始める。
その横顔を無造作に眺めながら頬に手を触れると、彼の熱さが移ったかのように熱を持っていた。
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