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10日8時12分。
狭間は、階段を上がっていった。
5F、刑事課。
鑑識を終え、報告書作成に取りかかっている川原係長の席に向かう。
「おはようございます」
「おぅ、ザマ。珍しいな」
「昨夜のダイオクの件ですか…?」
「何だ?」
川原は怪訝そうな顔で狭間を睨んだ。
総務の内勤ごときが首を突っ込むな。眼がそう言っていた。
「いえ、引き継ぎ書で見たもんですから」
川原は、狭間のうわずった声に警戒心を抱いた。
「言えねえな。…何か聞きたきゃ、上を通しな」
「いや、自分の知るところではないと自覚しております」
当然だが、ガードは鉄壁だ。
オマエと無駄な会話を交わしたところで、得られる情報などない――川原に見透かされている事を、狭間自身が痛感している。
まだ何かあるのか。
川原の無言の重圧が、狭間を萎えさせる。
「署内報のコメント、後ほど頂きに参りますので」
「分かってるよ。ちゃちゃっと書いてよこすから待っとけや」
「ありがとうございます。失礼します」
狭間は溜め息を飲み込み、席を立ち去った。
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