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狭間は、カウンター越しに見える美穂の煌びやかな姿を思い出していた。
眩しかった。そして何より、頭の切れる女だった。
田舎の高校しか出てないから、が彼女の口癖だった。しかしそれがたとえ謙遜でなかろうが、社会で生き抜くためのバイタルは人一倍であったし、狭間にはそれが新鮮であった。
そしてその力を自身が持ち合わせていないこと、だからこそ惹かれていたことを、彼は充分解っていた。
一浪しながらも、地元の国立大に合格した時が、自分の可能性を信じられるピークの時期だったと、しみじみ思う。
キャリアとして、警察のトップに上り詰めるなど、社会の競争原理を叩き込まれる以前に見ていた、淡い夢でしかなかった。
それでも、父親の強い希望は叶えざるを得ない。採用試験、警察学校を経て、狭間は道警に「就職」した。
昇進に執着することもなく、日々を無難に過ごすことだけを自身に課していた狭間にとって、美穂という女性は、信じられないほど眩い輝きを放っていた。
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