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「何で俺がこんなことしなきゃならないんだ……」
大量のプリントやノートの束を抱えて歩きながら、俺は深い溜息を吐いた。
消毒液のにおいが充満している廊下、そこには看護師が忙しそうに行き交い、入院患者は立ち話に花を咲かす。
俺はそんな人達と挨拶を交わしながら、目的地である病室の前で立ち止まる。そして、少し緊張した体をほぐす意味で軽く深呼吸をすると、扉を軽くノックした。
「は~い、どうぞ…」
ノックから間もなく中から若い女性の声が返事をする。俺は入室了承の声を聞くと同時に静かに扉を開けて入室した。
「え……」
声の主の驚いた顔、それは俺が入ってきたことが予想外だったことを意味している。
まあ…実際のところ、俺だって用事でもなければ病院になんて来ようと思わない。
「……な、何で貴方がここにいるのよ!?八桜 仁瀬(やざくら ひとせ)くん!」
「声がでけぇよ…つうか、フルネームで呼ぶんじゃねぇよ!委員長」
ベッド上で驚く相手に構わず、俺はそう言って近くの丸椅子に腰掛けて憮然とした顔で相手を見やる。
「ちょっと!ここは学校じゃないんだから、委員長って呼ばないでよ…」
「へいへい」
委員長と呼ばれるのが少し恥ずかしいのだろう…ブツブツと何言か呟きながら俯いてしまった。しばらくすると、落ち着いた様子で委員長はこちらを向く。
「…それで、一体何の用事?まさか、お見舞いに来てくれた…とか?」
「担任やクラスの連中に溜まったプリント類を渡すように言われたんだよ…ったく、家が同じ方向だからって、そんなの押し付けるなよな」
「そんなこと、私に言われても困るんだけど…」
俺の小言に委員長は苦笑しながらプリントやノートの束を受け取ると、サイドテーブルに置いてお礼の言葉を述べる。
「…ま、そういう訳だから俺は帰るぞ?あんまり長居しても悪いからな」
「あ……うん、今日はわざわざありがとう」
「気にすんな、どうせ家に帰るついでだしな」
そんな軽口を言いながら、俺は手を振って見送る委員長を尻目に病室を後にした。
「…まだ帰るには早いな」
病室を後にした俺はそう呟きながら時計を見やると、自然と足が動き出していた。
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