始まりの場所で

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重い鉄の扉……子供だけでは入ることが出来ないようにと考えられたその扉を開けると、空は茜色に染まり、夕日が地平線に顔を近付けているところだった。俺は梯子を登って一段高い所に腰掛けると、ぼんやりと夕日を眺める。 …ここは、俺にとってお気に入りの場所だ。 両親がこの病院で働いていることもあって、タイミングが合う時はこうして時間をつぶしている。 何をするわけでもなく、考え事をするわけでもなく……ただ、刻一刻と変わっていく空のキャンバスに、夕陽と雲が織り成す色彩の移り変わりを見つめる。俺は、そんな時間を過ごすのが好きだった。 でも、今日は何故か睡魔が襲ってきている……多分、昨夜の夜更かしが原因だろう。そんな事を思っていると、いつの間にか眠っていたらしい。気が付くと夕日は半分近く沈んでおり、茜色の空にほんの少し紺色が入り混じり始めていた。少しぼんやりと宙を見つめていると、柵の近くで夕陽に向かって立ち尽くしている人影が目に入る。 黒く長い髪…それは縛られることなく風になびいていた。歳は自分と同じか少し上に見えるが…何となく、目が離せない。 夕日と人影はまるで一つの絵となっているようで、素直にきれいだと感じた。それは一つの絵になっていることに対するものなのか、それとも彼女に対するものなのか、それはわからない。 ただ、まっすぐ手を伸ばせば、今にも届きそうで…… ∑ドスン 気付くと、目の前には空が広がっていた。じんじんと体中が痛むのを感じながら辺りを見渡すが、先ほど女性が居た場所には何も残っていない。 (……夢、だったのか?) グルグルと頭の中で思考が回っているが、ふと時計を見ると俺は溜息を吐いた。 (タイムアップか…) 俺は体を軽く叩きながら立ち上がると、そのまま階段を降りて帰途へ着いた。
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