或る元旦の事。(完結)

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普段は全く人気の無い萩山神社だが、年に一度だけ、多くの参拝客が訪れる時期がある。 それは正月だ。 この辺りには萩山神社以外の神社が無いため、萩山村周辺の村や町に住む人々は大抵、特別何か宗教を信仰していない限り、日本人の習慣として毎年萩山神社に初詣に訪れるのだ。 もちろんその中には、都会から親戚の元に来た流れで参拝に来る人もいる訳で。 「うわー、しょぼい神社」 「カミサマ居なさそー。ご利益あんのかな」 「失礼だよぉ」 けらけらと笑いながら通りすぎた若い男女を睨みながら、萩はぼそりと(勿論二人には聞こえないように)毒付いた。 「悪かったなしょぼくて。再拝二拍手一拝でやらなかったら祟ってやる。階段から落とす」 「こら萩、縁起悪いこと言わない。若者がそんなの知ってる訳ないじゃないの」 ぎくりと体を強張らせて振り返ると、後ろに立っていたのは穏やかな笑みを湛えたおよそ70歳近くの女性。 この神社の神主、高沢時子だ。 萩の正体を知る人間の一人でもある。
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