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彼等は今日この町に引っ越してきたばかりで、家の中はあちこちに段ボール箱が積んであった。
二人なのであまり多くないとはいえ、片付けで今は忙しい。
手伝いもせずに遊んでいる子供の相手が出来る程暇ではない筈だが、それでも用件を尋ねてくれた裕に、宏はもう少し甘える事にした。
「どうしてもとべないんです。教えてください」
宏が縄を差し出すと、裕は手伝えとは言わずにうーんと唸った。
「教えろって言われても……難しいな」
「だって裕はとべるでしょう?」
「跳べるけど、感覚だからなぁ。どう説明すればいいか……ちょっと跳んでみろ」
宏がもう一度跳ぶと(失敗したが)、裕は段ボール箱を足下に置いて手を出した。
「ちょっと貸せ」
縄を受け取った裕は庭に下りると、いとも容易く、連続で二重跳びをして見せる。
縄が空を切るヒュンヒュンという音に宏が感心していると、裕は跳ぶのを止めて宏の手に縄を握らせた。
「お前、肩から回してるんだ。肩じゃなくて肘と手首で回転させるんだよ。脇も締める。あと、足を曲げるんじゃなくて体をくの字にするんだって言っただろ」
「それがうまくいかなくて……」
「練習すれば出来るようになるから。……あっ、それよりお前、丁度良いところに来た!」
裕はすぐ側に積み上げられた段ボール箱の上に置いてあった、小さな小銭入れを取った。
「今日中に片付きそうにないんだよ。だから弁当買ってきて欲しいんだけど」
「駅前のお弁当やさん?」
「そうそう。ちょっと遠いけど一人で行けるか?」
「えっと……はい、大丈夫です」
宏は、頭の中で道のりをしっかり確認してから頷いた。
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