無題

6/9
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
   今の情けない自分の姿を昔の自分が見たらどう思うだろうか。  まだ社会の常識を知らなかった幼い頃、近所のいつも遊び場にしていた小さな空き地に、折りたたまれた紙と子猫が一匹入ったかごが放置されていた。  紙には当時習ったばかりの漢字で拾ってくださいと書かれてあった。  俺は迷わず子猫をかごごと家に連れて帰り母親に家で飼ってもいいかとたずねたが、案の定すぐに元の場所に戻してきなさいと怒られた。泣きながら駄々をこねて粘ってみたが、結局は諭されて元の場所にかごと子猫を置きに戻った。  次の日の学校帰りに心配になって空地に寄ってみたが、かごも子猫も忽然と姿を消していた。  あの時の子猫の消息は今ではもうわからない。   ただ当時の自分が今現在の自分よりも正直に日々を生きていることだけは確かであった。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!