第一章『黒く深い深海へ』

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 僕は混乱するのを抑え、冷静に考えた。     感染方法も感染経路も何もわからない新種のウイルスなのに、そう簡単にワクチンが作れるのだろうか?     何より研究室ってことは、ハルカは調査という名目で研究されるだけではないのか?      そこで僕は冷静に、防護服の男に質問した。    「さっき、“酷似した”ウイルスがハルカの血液から発見されたと言ってましたよね?“酷似”ってことは死亡した感染者のウイルスとは違うってことですよね?」   「…………ええ、確かに。あくまで“酷似”です。我々が考えているのは、宿主である大久保ハルカさんの病原体は感染します。しかし死亡した被感染者の病原体はなぜか感染しないのです。」   「…………。」   「つまり推測ではありますが、ウイルスは感染先では発病するものの、元である大久保ハルカさんの身体に影響はありません。宿がなくなってしまうとウイルスとしても不利益ですからね。」   「…………。」   「大久保ハルカさんから感染した者の病原体は、おそらく感染用のウイルス。被感染者が死亡すると数時間後に死滅します。しかしこのような感染をしても、ウイルスには何も得はありません。種族保存の法則から逸脱した、いわば完全なる“殺人ウイルス”です。」    僕はこの防護服の男の話から、ひとつの可能性を考えた。   
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