第一章『黒く深い深海へ』

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「………………?」    しかし、一向に運転手は無線をとる気配がない。   (もしかしてすでに事情を知ってるのか!!!?いや、それならばウイルス感染を恐れ、簡単に僕たちを乗せるわけがない。)    気になった僕は、タクシー運転手に探りを入れてみた。   「あの……今、県堺ですよね?」    するとタクシー運転手はゆっくりと答えた。    「……え?…ああ、県堺……そうね。県堺でしたね、ここ。」   「?」    「いや、お客さんに聞くのは間違いだろうが………この無線、どうやってとるんだっけ?」   「は?」    「と言うか、お客さん、どこに行くんだっけ?」   「何を言ってるんです?隣の県ですよ、隣の。」    運転手の言っていることがさっぱり理解できない。   (目的地ならまだしも、無線のとり方?コイツ、とぼけているのか?)    すると運転手はソワソワしだした。    「あの……ブレーキはどれですかね?今踏んでいるのはアクセル?……アクセルって何だ?」    運転手の様子が明らかにおかしい。    「ちょ、ちょっと運転手さん!!!何言って…」   「う…………うわぁぁぁぁ!!!!これどうやったら停まるんだ!!!!!?」    運転手はなぜか混乱し、雄叫びをあげている。    タクシーはカーブ手前に関わらず、崖に向かってスピードを上げだした。   「やばい!!!!!」    僕は運転席に無理矢理割り込み、アクセルを踏んでいる運転手の足をどけ、ブレーキを踏んだ。    キキキキーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!    「きゃああぁぁぁーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!」    僕は死を覚悟した。
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