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時折彼等は僕の名を呼ばない。
所詮僕は王としてしか価値がないのだろう。
ムルムルは口をぱくぱくさせてうなだれた。
少しやりすぎたな。
僕は床に落ちてぐちゃぐちゃにつぶれたアプリコットパイをひとつまみ口に含んだ。
「アキラ様!!?」
「ん、おいしい。
ムルムル、もう一個作ってよ。」「!!!・・・はい!」
ムルムルはぱっと顔を上げてキッチンへ走っていった。
彼等のなかでムルムルは最も扱いやすい。
「あと二人か。」
パイを片付けていたら空の瓶が目に入った。
瓶は七十。
すべて彼等の入っていた瓶だ。
ソロモン王が従えていた悪魔は全てで七十二柱。
しかも皆魔神クラスの力を持つ悪魔だ。
先程のどじっこムルムルも死霊使いにかけては素晴らしい才能を持っているし、女の尻を追い掛けているらしいベリアルもあの名高いルシファーに次ぐ力を持っている。
僕は義務のようにその悪魔たちを探しては解放している。
あと二人。
あと二人で揃う。
予言にある愚かな民とはきっと僕のことだろう。
「アキラ・・・べちょべちょ。」
扉の影から少女に似た中性的な子供がのぞいていた。
「パイ、ダメにしちゃったんだ。
アモンも欲しかった?」
聞くと子供、アモンは眠そうに首を振った。
斜めか。
はいといいえ、どっちなんだろう。
「待ってればムルムルが作って持ってきてくれるよ。」
ムルムルと聞いてアモンは整った顔をしかめた。
「うざいからいいや。」
アモンはそのまま廊下を抜けていった。
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