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大きな外灯の下にある自動販売機は、なんというか商売っ気が皆無に思えた。蛍光灯が切れかけなのかパッパッと点滅している。殆どの飲み物に売り切れランプが付いている。 千円札を紙幣挿入口に飲み込ませると、財布から紙のお金がなくなってしまった。適当に温かいお茶と、紅茶、コーヒーを選び、それを抱えて防波堤に戻った。 深山さんが伸ばしてくれた手に捕まって、塀に登る。話を終えたのか、男性はまた先程の場所に戻り釣りを再開していた。 「三つ買ったの?」 「さっきのお礼にと思って。おじさんに渡して来ますね」 先程はありがとうございます、と三本の温かい缶を差し出すと、おじさんは目を丸くした。 「そんな気を使わんでも良かったのに」 と言いながらも、お茶を選び取る。 「物々交換って訳でも無いんだがね。コレ、食べなさいよ」 お茶の缶を足元に置いてある風呂敷包みに無造作に詰め込み、そして彼は赤いネットに包まれた焼き栗を取り出した。 「え、あ、でも」と狼狽する私を見て、彼はカラカラと笑った。 「良いんだ良いんだ。嫁さんが握り飯と一緒に持たせてくれたんだが、一々こいつの殻を剥くのが億劫でね。姉ちゃんと、あんたの叔父ちゃんとで食べちゃいなよ」 おじさんはリールを回し糸を巻き取り、釣り針に付いていた餌を外しひょいと海に放る。身の回りの物を風呂敷や、大きなクーラーボックスの中に片付け始めた。 「もう引き潮になる頃合だからね、俺はそろそろ帰るとするよ。だからそれ、遠慮せんと、な?」 「それじゃ……ありがたく頂きますね」 「そうしな、そうしな」と彼は人懐っこい笑みで頷いてくれた。
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