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「怒ってません。悲しいだけです、聞かなきゃ良かったって。深山さんなんで嘘吐くんだろうって、私って深山さんの何なんだろうって考えたら悲しくなりました」 ガリガリと栗を剥く。薄い渋皮は未だ付いていたけど、そのままで自分の口に入れた。 「……怒ってるとすればこんなことでカリカリしてる自分です。わかってるんです理性では。初対面の人に説明するのも面倒ですもんね、20歳近く離れた女の子に懸想されてまして、とか!深山さんが私の事面倒臭いなぁなんて思って捨てられちゃったらどうしようって考えるだけで怖いのに。こうやって不満ぶちまけている自分に一番腹が立ちます」 深山さんは黙って私の頭に手をやった。優しく旋毛の辺りを撫ぜられる。 何と発するべきか、深山さんは暫く困っているようだった。 「琴ちゃんが僕に愛想を付かして捨ててくれれば良いんだよ。酷い男じゃないか、僕は」 「それが出来るならとっくにそうしてます」 「難儀だねぇ、どうも」 深山さんはクスクスと笑った。 難儀なのは深山さんに愛想を尽かせない私なのか、そんな私に好かれている深山さんなのか、どちらなのだろうとふと思う。 いや、きっと二人して「どうにも難儀」なのだろう。それなのにこうして寄り添って座り、釣り糸を垂れて、栗を食べたりしている。 カラカラと静かにリールを巻き取る深山さんの口元にまた栗を運んだ。それをゆっくりと咀嚼して、深山さんは私に聞いてきた。 「ねぇ、琴ちゃんは子供の頃に大事にしていた宝物とかあった?」 「宝物、ですか?」 突拍子の無い問いに、剥いている手元の栗から目線を上げ深山さんの顔へ向けた。深山さんはぼんやりと海の方を見つめている。餌木の沈んだ方を見つめている。
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