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「やるよ」
兄がひょいとウサギのぬいぐるみをくれたのは、風邪をこじらせ寝込んでいた最中の事だった。
ゲームセンターから家に帰ると、兄は私を着替えさせベットに寝かしつけた。寒風吹き荒ぶ中、かなりの距離を歩いたせいか私の熱は40度近くまで上昇していた。
その時の意識は朦朧としていて、正直はっきりしたことは覚えていない。
兄は母の職場に電話をかけ、ずっと謝っていた。いつものヘラヘラした軽薄な表情は微塵も無く、酷く辛そうな表情でうな垂れていた。
「ごめん、琴子が。凄い熱で。ごめん、ごめん」
母は仕事をすぐに切り上げ、家に戻るとまず兄を殴った。母は子供に手を上げるという事を、滅多にしない人だというのに。
ぎゃんぎゃんと怒鳴る声が聞こえていた。兄ちゃん、また怒られている。ぼんやりそう思っていると母は私を抱き上げ車に乗せた。
「注射は嫌!」抗議する余力すら最早残っていなかった。実際は注射じゃなくて、更に痛いことをされた。太い点滴針が手の甲に刺された。点滴を二本打ち終わる間、そこはじくじくと疼く様に痛かった。
気分は悪いし、頭は割れるようにガンガンするし、吐き気はするし、腕は痛いしで私は病院にいる間鼻を啜り上げながら泣いていた。小児用ベットに寝かされた私に寄り添って、母は数時間ずっと頭を撫でたり背中を摩ってくれたりした。
真夜中近くになって家に戻ると、父が仕事から戻っていた。
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