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「ウサギって可愛がらなきゃ寂しくて死んじゃうんでしょ?大丈夫!抱っこして毎晩寝るから!」
「ばぁか、寂しいくらいで生き物が死ぬかよ」
カラカラと犬歯をむき出しにして兄は笑った。
「寂しいだけで死ねたら、そんなに楽な事もないさ」
「でも兄ちゃん、大丈夫なの?」
「何が?」
「お金。兄ちゃんクレーンゲーム下手なのに。結構使ったんじゃないの?大丈夫?」
「大丈夫だよ、友達から少し借りたから。だから大丈夫」
実際はちっとも大丈夫じゃなかった。
兄はまたふらりと出かけ、入れ違いに父が帰ってくる。兄の通う高校の教師が家に訪れたのは、調度夕食時だった。
玄関先で父と母と先生がボソボソ話している。私の部屋からでは何を喋っているのかまでは解らなかった。が、突然母の泣く声と父の謝る大きな声が聞こえてきた。
よく解らないが、どう考えても明るい話題ではなさそうだ。
布団を被り、ウサギを抱きしめた。首に「私、ウサギのラビィちゃん」と名札を付けていたので、ぬいぐるみの名前はそのまま「ラビィちゃん」にしようと決めた。
「兄ちゃん、また怒られるのかな?また何かやったのかな?」
ウサギのくりくりした目玉を見つめながらそう聞く。さぁ?とラビィちゃんも困ったように首をかしげたような気がした。父が着替えを始めた。
「父さん、どこか行くの?」
襖を少し開いて顔を出し、憔悴したように座り込む母におずおずと尋ねた。母は深い溜息を吐いた。
「……警察に」
警察!?思わずポカンと口を開けてしまった。
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