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「ウサギのぬいぐるみ、かな」 少し考えてそう答えると、深山さんは「女の子らしいね」と微笑んだ。 「深山さんは何だったの?」 「僕?僕はねぇ……びぃだまかな。昔、通っていた小学校で大流行したんだ」 「へぇ」と相槌を打ちながら、少し不思議な気分だった。昔、小学生の、まだ子供の深山さん。私の知らない、きっとまだあどけない可愛い男の子。 そんな時期が深山さんにもあった。至極当たり前のことなのに、隣でぼんやりと海を見つめているこの人の子供時代が、私には想像できない。 「まだ駄菓子屋さんが街のあちらこちらに有ってさ。そこには大概5円で引かせてくれるくじがるんだ。当たりはたまにしか出ないんだけどね。外れると駄菓子屋の婆ちゃんが飴玉とかチューインガムを一枚くれる」 「安いくじですね」 「うん。まぁ景品もたかが知れてるんだけどさ。でも近所の悪ガキ一同で狙っている品があってね。特大錦と特大ミルキー玉のセット」 「とくだい、錦?」聞きなれない言葉に首をかしげる 「びぃだまの種類だよ、これくらいのさ」 深山さんは親指と人差し指で丸を作り、その大きさを示してくれた。直系五センチ程の、かなり大ぶりなびぃだまなのだそうだ。 「よくあるでしょ、びぃだまの球体の中に波というかリボンみたいな模様のある……あれを錦球っていうんだよ」 「ああ、それの大きなヤツだから特大錦!」 「そうそう。ミルキー玉はね、瀬戸物みたいな乳白色のつるりとした感触の……ガラス球とはまたちょっと違う感じの玉。大きなびぃだまってのはそれだけで貴重だし、僕のまわりじゃ小遣い貰ってる奴なんて居なかったからね。一回5円に願いを託してくじを引きまくったんだ」 「あ、もしかして深山さんそれが当たったんですね!」
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