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「ピンポン。もう本当に、嬉しくって!貰った二つをズボンのポケットに突っ込んで、ずっと撫でながら帰ったよ。家に戻って、宝箱の代わりにつかってたお菓子の空き缶に隠した。割れないようにきちんとティッシュペーパーで包んでね」
「隠したんですか?」
「そう、秘密の宝物。近所に腕っ節の強いガキ大将が居てさ、彼に見つかったら巻き上げられると思って。昔はどこにでもいたんだよ、ジャイアンみたいなヤツが」
リールを巻き取る。手元に緑色の餌木が戻ってくる。海水に濡れたそれを一度軽く撫でると、深山さんはまた片手で釣竿をしならせる。
「たまにこっそり眺めてはいつ使おうか、皆羨ましがるだろうな、なんて事を考えてニヤニヤしてたんだ。だからきっと、その罰が当たったんだろう」
遠くで緑が墨色の水の中に沈んでいく。深山さんはそれを見つめながら、いつもの穏やかな笑みを顔に張り付かせ静かに言葉を続ける。
「ある日、宝箱の蓋を開けたらびぃだまが二つとも綺麗に割れていたんだ。訳が解らなかった。誰にも内緒にして、大事に大事にしてたのに、それがある日突然壊れたんだから」
「ある日突然……理由は解らずじまいですか?」
「ああ」と深山さんは小さく頷いた。
「母が掃除の時に間違って私が箱を落としたのかもしれない、ごめんねって謝ってくれたけど。でもしっかりティッシュで包んでいたからそれは違うと思う。結局ゴミに出しちゃった。破片で手を切ると危ないからって」
ある日突然、消えてしまった宝物。大事に大事にしていたのに。
「後悔したよ、こんなことならもっといっぱい遊んでやるんだったって。ガキ大将に取られても構わない、一度で良いからびぃだま遊び、しておけば良かったって。後悔ばかりなんだ……僕の嫁さんの事にしても、だけどね」
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