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「違う、違うよ深山さん!」 衝動的に叫ぶ。 「違う、そうじゃないよ、違うよ、違う」 何がどう違うのか。深山さんと奥さんの事なんか、二人の間のことなんかちっとも知らないくせに。 私は深山さんの体を抱いて、背中を撫でて「違う、違う」と囁き続けた。泣き続ける子供を、あやすように。 「どうにも格好悪いね、僕は」 やがて、深山さんは深いため息を一つ吐き、私の体から離れた。へらりと力なく笑う。 「ううん、そんなこと。……落ち着いた?」 「うん、少し。醜態を晒しちゃったな」 「良いよ。深山さんの醜態ならいくらでも見てあげます」 「……ねぇ琴ちゃん、僕はね、このオジサンはね、こういう奴なんだよ」 照れくさそうな顔をしながら、深山さんは落ちていた釣竿をまた手に取った。 「過去に囚われて、停滞している一歩も動けない最悪な亀さんなんだ。君みたいな若い娘がさ、どんどん先に行けるような娘が僕みたいな奴に関わって時間を浪費しちゃいけないんだよ」 「浪費だなんて、思ってません!私は深山さんが……」 「好きなんです?うん、知ってる。君を引き離した方が良いと思いながらもね、でも琴ちゃんが居なくなったら怖いと思う自分も、居るんだよ」 「………はい?」 「一緒にね、笑って飯喰う相手が、笑ってあちこち話題が移り変わる他愛も無い話をする相手が、たまに酔っ払い過ぎて背負わなきゃいけない相手が。そんな相手が居るのがどんなに楽しかったか。琴ちゃんのせいで僕は思い出しちゃったんだよ。嫁さんが死んじゃってから、僕みたいな奴は一人で生きて行くべきだって、そう決めていたのに」 ああ、この言葉をどこかで聞いた。 一人で生きる。誰にも干渉されず、誰にも干渉しないで。そんな風に。 「それは無理なんだって、寂しいから無理だって。つくづく思い知らされた。ねぇ、琴ちゃん僕っ、はををぅ!?」 「はをぅ?」 聞きなれない日本語に首を傾げたのと、深山さんが叫んだのは一緒だった。 「かかった!」 釣竿が、ぐんとしなっていた。
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