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「落ち着いたら直ぐに手紙書くよ、住所とかばれないように、だけど。琴子に一番に連絡するよ、兄ちゃんは此処に居るよって」 「でも遠くに行っちゃうんでしょ?」 「うん。でも琴子に困ったことが起きたら、例えば誰かに殴られたりとか苛められたりとか、悲しくてもう全部が嫌だってな事が起きたら……兄ちゃん一番に駆けつけるから」 「本当?」 「本当」と兄は頷いた。 「どこに居ても、兄ちゃん助けてって琴子が呼んでくれたら兄ちゃん直ぐ来てやるから。それなら大丈夫だろ?」 「約束!」小指を立ててそう言うと、「わかった、わかった」と兄も小指を立てた。二つの指を絡める。指きりげんまん、嘘ついたら針千本。 「ほら、もう寝ろ。琴子が寝付くまで傍に居てやるから」 私の部屋のベットに寝かされた。頭を撫でられる。興奮して、眠くなんかならないつもりだったのに、憎い睡魔はすぐにやってきた。 寝てしまったら兄は居なくなる、解ってはいても眠くて眠くてたまらない。 「琴子は……どんな奴を好きになるんだろうなぁ。お前はお前の親父にさんに似て整った顔立ちしてるから、きっともてるんだろうなぁ」 薄れる意識の中で、兄がそう囁くのが聞こえた。静かに彼は笑っていた。 寂しそうに、軽薄そうにでは無く、なぜかとても幸せそうに。最後に見た兄は、とても満ちたりた表情で笑っていた。 その翌日から、兄は姿を消した。三日後に警察が家を訪れた。捜索願が出される。母はまた泣き伏し、父は深いため息を吐いた。 家出した兄は一人では無かった。バイト先で知り合ったという、年下の女子中学生と一緒に逃げたのだ。嫌な場所から。家から父から、学校から。 その後、どうなったかを私はあまり詳しく教えてもらえなかった。
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