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二人は数ヵ月後に発見された。
遠く離れた田舎町。小さな公園のベンチで、寄り添って眠っているのを深夜パトロールで巡回中の警官に見つかり保護されたのだ。
路銀を稼ぐために兄は置き引きや窃盗まがいの事を繰り返していたらしい。そのせいで家に戻されること無く、少年院に送られてしまった。
兄と一緒だった中学生の女の子がどうなったかは、知らない。
ただ、その一家は噂が広まるのを恐れて、早々にどこかの街へ引っ越して行ったらしい。
だから彼女のお腹の五ヶ月の子供がどうなったかも……知らない。
大人同士の難しい話し合いが開かれた。兄の親権は母から、兄の実父の親類へ移る事になった。
それが決まった日、厳格な父がむせび泣いた。いつもは泣き伏す側だった母が、反対に父を宥めていた。
「すまない、すまない」と何度も父は母に詫びていた。
「彼の父に僕はなりたかった。真っ直ぐな大人に、間違わない道を歩まないように、誰よりも厳しく実の親のように叱るのが彼の為になると信じて。いつかはわかってくれると、彼も理解して打ち解けてくれるだろうと、願い続けていたのに」
それが仇になったのだろうか、僕のせいだ。すまないすまない。そう謝り続ける父の背を母はずっと何も言わずに、撫でていた。
繋がる事無く、断ち切れる。どんなに思っていても、通じない物もあるんだと。
父は兄を好きだったのか。今更、知った。
父の思いを知らぬままで姿を消し、逃げ出してしまった兄に対して初めて憤りを覚えた。
そして寂しかった。彼はもう、私の兄では無くなったのだ。隣の部屋に戻ってくる事はもう無い。
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