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母の元には、少年院を出た兄から数ヶ月に一度葉書が届く。住所も職も、その度にコロコロ変わっていた。 母は父にその手紙の事を一切知らせず、現金書留を用意し送っていた。 しかしやがて、その便りも途絶えた。 「落ち着いたら直ぐに手紙書くよ。琴子に一番に連絡するよ、兄ちゃんは此処に居るよって。どこに居ても、兄ちゃん助けてって琴子が呼んでくれたら兄ちゃん直ぐ来る」 私には一通の葉書も、来ないままだった。 どんなに会いたくても、助けを呼ぼうとも、きっともう兄は来てくれないのだ。嘘吐きと罵りたくても、無理なのだ。 失くしてしまった大事な物。 家族への愛情なのか、それとも淡い初恋だったのか。それを認識する前に、兄は消えた。私の世界から。 「琴子は……どんな奴を好きになるんだろうなぁ」 そう呟き、満ち足りた微笑を残して。せめてあの瞬間、兄は幸せだったのだと思いたい。 強くなりたい、一人で生きたい、誰にも干渉せず、されず、そんな大人になりたい。そんな乾ききった事を言う寂しい心をしては居なかったと思いたい。
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