43人が本棚に入れています
本棚に追加
「寂しいね、どこか寂しいね」
深山さんが、何か囁いている。
「琴子は……どんな奴を好きになるんだろうなぁ」
兄ちゃん、私の好きになった人は、どこか貴方に似ています。全然違うけど、でもどこかが。
「そうですね。こんなに暗いと、こんなに静かだと、寂しいですね」
答えたいが、眠くて口を開くのも億劫だ。
良いんですよ、深山さんの理由が「寂しいから」だったとしても。私は貴方が好きです、好きでなんです。
寂しいくらいでは死ねはしない。でも寂しいから、だれかと寄り添う。だから一人では生きていけない。
好きなんです。私の思いが届かないとしても。
好きだったんです。今はどこにいるか解らない貴方へ。
例え爆ぜて無に帰すとしても。私は貴方に囁き続けるだろう。
うつらうつら、眠りと覚醒の間で揺れる。
基礎的な波の音。寄りかかった先の暖かな体温。深山さんが私に何か言っている。とつとつと語りかけている。
うん、うん。ろくすっぽ意味すら理解出来ぬまま、私は寝ぼけた相槌を返す。
静かな物悲しい海の始まり、陸のどん詰まり。きっと独りなら酷く心細いだろう。
でも隣に暖かな体温が、語りかけてくれる言葉が、この人が居るから、きっと大丈夫だ。
暗い海はどこまでも広がる。遠い彼方からいくつもいくつも波が打ち寄せて来る。
いつか見た、冷たい灰色の冬。遥か向こうまで続いていたあぜ道。兄と共に歩いた道。
私は今度はどこに行こうとしているのだろうと思った。
家路では無い、家族では無いこの人と一緒に。
ねぇ深山さん。好きなんです。
囁きたい言葉は果たして音になったのか。解らぬまま、先が見えぬまま、でもこの人と一緒に、在りたい。
「寂しいね、寂しいね」
深山さんが呟いている。そうだね、そうだね、頷きながら私はひらひら、眠りとこちらの境を彷徨っている。
闇間をひらひら、頼りなく泳ぐように。
END
最初のコメントを投稿しよう!