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兄と二人で歩いたあぜ道。
深山さんと二人で歩いている夜道。
ついと視線を直ぐ隣にむけると、深山さんも私の顔を見ているところだった。
「なぁに?」とちょっと首を傾げてみせると「いや、ね」と深山さんもちょっと首を傾けた。
「琴ちゃん、お腹空いてるのかなぁって思って」
「ええ?さっき御飯食べたじゃないですか!」
「うん、でも琴ちゃんが少し無口になる時ってご機嫌が斜めな時か、お腹空いてるときぐらいだから」
「ちょっと考え事、してただけです」
笑って私は深山さんと繋いだ手をぶんぶん振った。
「それにお腹が空いたら黙るって、小学生ですか私は!あの定食屋、結構ボリューム多くて食べきれないくらいでしたもん。まだまだお腹は大丈夫ですよ」
「うん、そうだよね。僕もちょっとキツかったくらいだし。刺身定食でまさかあの量が出てくるとは思わなかった」
刺身定食……そうだった。イカ釣りの話はそこからだった。
今日の夕刻、行ったのは繁華街の端にある小さな食堂だった。タクシーの運転手らしき人や、建築業に就いているような風貌の男の人がちらほら店内にいた。
壁にはいつのものか解らないくらいに古ぼけ生ビールのポスターが貼ってある。僅かに茶色に変色しながら、ビールジョッキを持った水着の女性が満面の笑みを投げかけてくる。店の隅のラジオから懐メロがずっと流れ続けていた。
注文をして程無く、無口なおばさんがきっかり同時に二人分の膳を運んできた。
刺身定食にはマグロの赤身と、バカ貝と、秋刀魚とタコのお刺身が入っていて、それを頼んだ深山さんが一切れずつ私に分けてくれた。
そして宇宙人の、火星人の話になった。深山さんと話していると、会話は思いもよらない方向へ進路をとる。
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