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「火星人はね、タコの形をしているんだよ。僕の子供の頃は宇宙人はみんなタコの形をしているんだと思ってた」 「私は……宇宙人は目と頭が大きな子供みたいってイメージですね」 私の頼んだ牡蠣フライ定食は、衣だけが分厚くて古い油を使っているような匂いがした。 それでも一つ分けてあげると、タルタルソースをたっぷり付けて頬張り「美味しい」と深山さんは嬉しそうに笑った。 だから私も嬉しかった。 なんだって良い、云万円の懐石料理でも数百円のファーストフードでも。深山さんが嬉しそうに笑ってくれたら私にとってもそれはご馳走だ、幸せになれるのだ。 「ああ、未知との遭遇の宇宙人だね」 「それ、何ですか?」と聞くと深山さんは目を丸くした。 「有名な映画じゃない!琴ちゃん知らないの?」 「多分、見たことないです」 「……ねぇ、琴ちゃん。宇宙人の出てくる映画って何が好き?」 MIBとインデペンデンスデイ。ウィル・スミスが好きだから、と答えると深山さんは困ったように唸った。「その映画も、俳優も知らないや」と呟いてパクパクパクと三口で牡蠣フライを片付けた。 「僕は最近の映画はわかんないからな。ほら、オジサンだから。未知との遭遇も前の映画だからなぁ。琴ちゃんが知らなくて当たり前か」 深山さんのその言葉に、ちょっとムッとした。度々深山さんはこんな言い方をする。 僕はオジサン。琴ちゃんは若い。 意識的になのか、無意識なのかは知らないけれど。でも境界線を引かれている気がして悲しくて悔しくなる。 歳なんてオジサンだなんて、そんなのどうでもいいのに。私が深山さんと同じくらいの、40過ぎたオバサンだったら深山さんはこんな発言はしないのだろうか? でも私があと20才くらい老けてて、中年といわれる年齢の女だったとしても、深山さんはこうやってご飯に誘ってくれるのだろうか、連れて歩いてくれてたまに寝てくれるんだろうか? 色々考えるとぐるぐるしてきて、悲しいより悔しいの比率が大きくなって。私は口中のタコを味噌汁で流し込んで宣言した。
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