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「見ます!未知との遭遇、見ます!」
「そこまで意気込んで見るようなタイプの映画でも無かった気がするけど。僕も内容は大分忘れているかも。今度ビデオ借りて一緒に見ようか?」
「はい。……タコ型の宇宙人が出てくる映画は無いんですか?」
「ああ、そういえばそれは知らないなぁ。アレが実写化されたら少し怖いかも。足がね、いっぱい有るんだよ、八本だけじゃなくて何十本も有るんだよ。それが動くんだ」
箸を持ったまんまで、深山さんは腕をにょろにょろ動かしてみせた。口もタコみたいに少し尖らせて。
そのコミカルな動きに私は思わず笑ってしまう。
「ねぇ琴ちゃん、タコの足は8本だろう?じゃイカの足は何本だと思う?」
「10本、ですよね?」
「それがタコと同じく、8本なんだよ。後の2本は手なのさ」
「……タコには手、無いんですかね?」
「ああ、それは考えなかったな」
その後は四本足の動物の前足は手と例えるべきか否か、という話題に移った。
タコ→宇宙人→映画→タコとイカの足→動物の手。なんだか会話があちこちに飛ぶが私と深山さんはいつだってこうだ。
深山さん本人にも自覚は有るらしい。
「僕らの会話って、風が吹いたら桶屋が儲かるって言うでしょ?アレを更に酷くしたようなもんだろうね」
一度苦笑いしながらそう言っていた。
確かその時は深山さんがよく通う小料理屋で、めっぽう美味い稲荷寿司を食べたのだ。「こんなに美味しければ、狐も喜ぶなぁ」と深山さんが呟いて、稲荷から狐の話になった。
「狐は化けるよね」
「狸もそうです」
「知ってるかい琴ちゃん、化ける狸の金玉は広げると八畳にもなるらしい」
「そんなに大きな金玉でどうするんでしょう?」
「さあ?広げて空でも飛ぶんじゃないかい?」
「狸、飛ぶんですか?」
「化けるくらいだもの。飛ぶくらい、しそうじゃない?」
「可笑しいですね、ハングライダーみたいにピューって飛ぶ狸!」
「しかも金玉で!」
ひとしきり二人でケラケラ笑って、そしてハングライダーから飛行機の話になった。
カウンターでちょこちょこ私達のやりとりを聞いていたらしい年配の女将さんは呆れたように首を傾けた。
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