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四季織町には神社が四つある。
春を司る神を奉った桜霞神社。
夏を司る神を奉った蒼心神社。
秋を司る神を奉った朱染神社。
冬を司る神を奉った白雪神社。
しかし、そのどれにも属さず、何を奉っているかも、存在さえも忘れ去られた神社があった。
広大な敷地を誇る四季織町の中でも全く手が加えられていない山の奥。
まるで山をえぐり取ったような場所に、それは建っていた。
たどり着くにはまず、入り組んだ道を通る。
次に長い階段だ。
だいぶ角度のキツい階段を越えた先にようやく姿が見えた。
健康のためにウォーキングを始めている老人ですら近寄らないのが忘れられている理由だ。
「ふう、今日もいい天気…」
零也は階段を振り返り、景色に目を向けた。
ちょっぴり高くて目がくらむけど、それでもここからの景色が零也は好きだった。
くるりと再度、きびすを返して神社の境内に足を踏み入れて深呼吸した。
「ん~!やっぱり気持ちいいなぁ…」
てくてくと石畳を歩き、本堂の前で一礼。
「…どうか、お母さんを見つけてください…」
零也の日課は毎朝のお参りだ。
突如として姿を消した母がいつか帰ってくるように、と。
あとは前日にあったことを日記のように報告したりもする。
「昨日は…あ、ここの階段で転んで怪我しちゃいました…」
えへへ、と笑って零也はポケットから金平糖の袋を取り出して本堂に供えた。
「ちょっとだけ、休ませてくださいね」
本堂との仕切りが既に風化してなくなっているので、本堂に腰掛けられるのだ。
時々、柵が無くなってるのに本堂はなんで平気なんだろうとか考えるけど、きっと神様がいるからだと零也は信じていた。
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