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「…紅葉、綺麗だなぁ…」
季節は秋、零也が一番好きな季節だった。
少し肌寒いけれど、暑いよりもマシだ。暑いのには零也は弱い。
と、突然に風が吹いた。
目を開けていられないほどに強い風は紅葉を巻き上げて山を吹き抜けた。
「びっくりしたぁ…あれ?」
えぐり取ったような場所の前に本堂は建っている。
故に、本堂の隣には大量の紅葉が積もっていた。
恐らくは何年にも渡り、積もっていたのだろう。
その落ち葉が全て巻き上げられ、小さな祠が現れた。
近寄って、覗き見る。
「なんだろう…お狐様じゃないよね…?」
祠のはずなのだけど、珍しく赤ではなく白や銀を基調としている。
そして、動物も何かの神を模した像もない。
あるのはただ、扉。
なんだか妙に惹かれて零也は触れた。
刹那、光が溢れた。
「っ────!?」
Ⅱ
零也は目を覚ました。
しかし、なんだか夢かな?と思い頬を引っ張った。
「いひゃい…」
痛かった。
しかし、それでも信じがたい。
そもそも零也は神社に居たはずで、何をどう間違ってもだだっ広い和室なんかにはいるはずがないのだ。
零也には瞬間移動なんてできない。
ここはどこ?
当然の疑問を頭に浮かべ、零也は視線をさまよわせた。
そして、息を呑んだ。
目の前の開けっぴろげな障子の向こう、落ち葉がはらはら散る中で、少女は踊っていた。
朱い髪をなびかせ、豪奢な着物をはためかせ、その豊満な胸を着物から覗かせ、顔には笑顔。
喜びをそのまま表したような踊りは、零也の視線に気付いたのかぴたりと止まった。
「くすっ」
振り向いて笑う彼女に零也は心臓が爆発したような錯覚に陥った。それほどまでに彼女は美しかった。
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