1.秋風に舞う君

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九年。 それは散葉が零也と対面するのに要した時間だ。 確かに短いとは言いにくい。 それでも何千年も生きている散葉にはたいした時間ではなかったのだろうが。 「そ、それにね?あの結界の中って食べ物はたくさんあるし布団もフカフカだったんだけど…一人っきりだったし…何百年分かの性欲がね…?」 ブハッ。零也は激しく咳き込んだ。せ、性欲って…。 けれど、多分彼女は嘘を言っていない。それはわかる。わかるけれど、それでも零也は─── 「でも…やっぱり…だめです…」 途端に散葉の目は潤む。 潤みきって雫が零也の顔に落ちた。 「なんで?…私が人間じゃないから?年上だから?あ!安心して?私は零也くんが初めてだよ?」 零也は応えない。 「それでも…だめなの…?」 違う。 そんな事じゃなかった。神様でも、圧倒的に年上でも…初めてじゃなくてもそんなことはどうでもよかった。 「違うんです…そういうことじゃないんです」 言いながら零也は散葉の涙を指で拭った。 「散葉さんは僕のことをよく知って、その上で僕を好きと言ってくれました。僕はそれがとても嬉しいです」
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