1.秋風に舞う君

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「どうしたの、零也くん?まだねむねむかな?」 「あ、いえ!?ぐっすり眠りましたから…!」 あれ?今…? 確かに彼女は零也、と呼んだ。 けれど零也は名のっていない。 さらに言えば、こんな人に、こんな綺麗な人に会ったことなどない。 そんなことを考えながら零也が惚けていると、その少女は近づいて来て零也の頬をつつく。 「ふふふ、その顔は私が誰かとか、なんで名前を知ってるかとか考えてるでしょ?」 ふにふにと彼女は零也の頬をつついた。考えをずばり的中され、零也は顔を赤らめた。そんな姿を見ていた彼女は花が咲いたように笑う。 笑ったまま、零也をだきしめた。 身長が低い零也は長身の彼女に抱かれると胸に顔をうずめる形になる。 それがまた恥ずかしくて零也は身を棒のようにした。 「私はね、散葉。星宮散葉だよ、零也くん」 「ちるひゃひゃん…?」 やっぱり聞いたことがない。 けれど─────。 ちるは、散る葉。 先ほどの踊る姿も相まって、なんだかぴったりな気がする。 「うん……あはは、変な名前だよね…散る葉なんて今にも死にそうだもんね」 零也はバッと顔を膨らみから精一杯ずらして散葉の顔を見た。ギリギリ口が谷間から解放されたけど、体制的には首を限界まで逸らし、背伸びしているから辛い。でも、だけど。 「そんなことないです!散る葉、いいじゃないですか!葉っぱが一生で一番自分を主張する時です、とっても、とっても綺麗な名前ですよ…!」 はぁはぁ、零也は息を切らした。なんだか恥かしくなって俯きたくなるけれど、そうすればまたあの、たゆゆんな膨らみに顔を埋めることになってしまう。だから、零也は散葉を見つめたままだった。 故に、散葉の表情の変化を特等席で見ることができた。一瞬、驚いたように目を見開き、刹那、顔を泣きそうに歪ませ、次の瞬間には飛びきりの笑顔へと変わったその様を。
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