1.秋風に舞う君

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       ☆ 「散葉さん!お鍋ふきこぼれてますよ!」 「え…?あ!きゃあ!お、お水!」 「散葉さんそれ、火!火です!力使ってますよ!」 「きゃあぁああ!」        ☆ 黒こげだった。 鍋だけじゃなく、キッチンが。 「ごめんなさいっ!自分でもなんであんなことしたのか…!」 「いえいえ、仕方ありませんよ。それより火傷はありませんか?」 「あぁぁ…!今は零也くんの優しさが痛い…大丈夫、火傷なんてないよ?」 しかし、零也は散葉がさっと後ろに手を隠したのを見逃さなかった。すかさず、引っ張り出す。 「赤くなってるじゃないですか!」 「あ、あれ~?気付かなかったな~?」 「火傷は早く冷やさないと痛いんですから…はむっ」 迷わず、零也は散葉の指をくわえた。そのままかろうじて被害がなかった皿に水をいれ、散葉の指をつけた。 「ごっ…ごめんなさい!間違えました!くわえるのは切り傷ですよね!?」 「えへっ…えへへへ…零也くんが私の指くわえてた…この辺かな?あむっ」 「ちょっ!?」 「うふふっ間接キス!…そんなに赤くならなくても、ふっかぁいキスしたじゃない零也くん」 それはそうなのだけど、なんというか実際にキスするよるよりも恥ずかしい。キスと言われたからなんだか意識して散葉の唇に零也の目は引き寄せられてしまう。 「キス…」 「え?」 零也は慌てて口をふさいだ。ついつい口から思考が漏れてしまった。散葉はそれを見てにんまり笑う。 「キス、したくなっちゃった?」 びくっ、と体が揺れた。 散葉はそれを見逃さない。 「しよ…?私、したい…零也くんはしたくない…?」 「えっと…その…」 結界の中での出来事が、感触が、頭にフィードバックする。 絡み合う舌、混ざり合う吐息、潤む散葉の瞳。全てが零也の思考を鈍らせ、首を重くする。 重くなって、耐えきれなくなって、零也は首を縦に振った。
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