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「え、えっと次はどこに行くのかな?」
「…次はあそこに見える、時計台です」
「あ~ん、零也くん機嫌なおしてよぅ…」
零也が不機嫌なのには理由があった。抱きついて胸を押し当てていた散葉がエスカレートして服の中に零也の頭部をすっかり包んでしまったのだ。
まわりからあがった歓声に、いたたまれなくなった零也は走って逃げた。
散葉さんの…散葉さんの馬鹿ぁ~!
叫んで逃げたがすぐに見つかって今にも至る。
「…ごめんなさい…やりすぎちゃったよね…」
すっかり落ち込んでしまった散葉に零也の胸が痛む。実はそんなに怒っていないのだ。ただ、いつもどーりにしていたらまた恥ずかしい目にあう。だから零也は怒ったふりをしていたのだ。でも、もう止めることにした。
散葉さんのこんな顔、見たくない!
零也の心はその思いに満たされていた。だから、力なくぶらぶら揺れてる散葉の手を取って、精いっぱいの笑顔を見せた。
「行きましょう、散葉さん!もうすぐお昼です。十二時になったら鐘が鳴るんですよ。売店で何か買って、二人で見ましょう?」
「零也くん…。うん!楽しみだなぁ…」
「きっと気に入ってくれますよ」
「うふふっ、零也くん大好き!」
「わ、わ!走ってるときに抱きついたら危ないですよ!」
「えへへ、ごめんなさい!」
彼女の笑顔を見ていたら胸が痛んだ。
けれど、それはいつものような痛みではなく、胸を締め付けるような甘い疼きだった。
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