2.仲直りしましょ?

9/46
前へ
/149ページ
次へ
「え、えっと次はどこに行くのかな?」 「…次はあそこに見える、時計台です」 「あ~ん、零也くん機嫌なおしてよぅ…」 零也が不機嫌なのには理由があった。抱きついて胸を押し当てていた散葉がエスカレートして服の中に零也の頭部をすっかり包んでしまったのだ。 まわりからあがった歓声に、いたたまれなくなった零也は走って逃げた。 散葉さんの…散葉さんの馬鹿ぁ~! 叫んで逃げたがすぐに見つかって今にも至る。 「…ごめんなさい…やりすぎちゃったよね…」 すっかり落ち込んでしまった散葉に零也の胸が痛む。実はそんなに怒っていないのだ。ただ、いつもどーりにしていたらまた恥ずかしい目にあう。だから零也は怒ったふりをしていたのだ。でも、もう止めることにした。 散葉さんのこんな顔、見たくない! 零也の心はその思いに満たされていた。だから、力なくぶらぶら揺れてる散葉の手を取って、精いっぱいの笑顔を見せた。 「行きましょう、散葉さん!もうすぐお昼です。十二時になったら鐘が鳴るんですよ。売店で何か買って、二人で見ましょう?」 「零也くん…。うん!楽しみだなぁ…」 「きっと気に入ってくれますよ」 「うふふっ、零也くん大好き!」 「わ、わ!走ってるときに抱きついたら危ないですよ!」 「えへへ、ごめんなさい!」 彼女の笑顔を見ていたら胸が痛んだ。 けれど、それはいつものような痛みではなく、胸を締め付けるような甘い疼きだった。
/149ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13122人が本棚に入れています
本棚に追加