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「散葉さん、何にしますか?」
「ん~…現代の食べ物ってあんまり知らないのよね…じゃあ、零也くんを食べる!」
「残念ながらメニューにありません」
言ったのは零也ではなかった。カウンターの向こうにででんと仁王立ちした、響だった。
零也ですら驚いて目を丸くする。
「山声さん、ここでバイトしてたんですか」
「ふふっ、どうせこのダボダボの制服でわからなかったんでしょ」
そのとおりだった。
まず第一に、ブカブカの帽子で顔を隠されていた。次に体格が全くわからないくらい大きな服。最後に涙声。
これでは誰もわからない。
「あ~…ご愁傷様」
「うえ~ん!」
泣き叫び、響は裏に引っ込んでしまった。代わりに別の店員が出てきた。なんだか手慣れているようなので響がああなるのはよくあるようだ。
「えっと…どうしますか?」
「いや、私はいいや」
「え、どうしてですか?」
「よくよく考えたら…私、現代のお金を持ってない…」
あぁ、なんだそんなことか。
申し訳なさそうに視線をずらす散葉に零也はそんなことを思った。
「…ちなみに、お金があったらどれが食べたいですか?」
「え?これかな?」
散葉が指さしたのはクリームリゾット、三八十円
「えっと、オレンジジュース二つと、クリームリゾットとサンドイッチください」
「え?ちょっ、零也くん!?」
「僕だけ食べるわけにはいきませんよ。それにいつもお世話になってますから」
食事も、寝るときも、最近は散葉に頼りっきりな零也はせめて散葉に少しでも恩返しがしたかった。
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