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「で、でもっ!」
納得がいかない散葉はまだ食い下がった。しかし零也は知っている。この売店は注文から一分で商品を出してくれることを。案の定、散葉が零也を揺さぶっている間に商品はやってきた。
「はい、九百八十円ですね」
「ありがとうございます。さ、散葉さん、行きましょう」
「…ありがとう…零也くん」
「いえいえ」
珍しく大人しくなった散葉に笑いかけ、零也は歩を進めた。
学園の広大な敷地のほとんどは緑であふれている。まぁ、妖怪が住むならそっちのほうがいいのかもしれない。
「この辺がいいですね」
「ん~!久しぶりにこんな原っぱに来たよ。気持ちいい~!」
ぐい~んと背伸びして散葉は零也を抱きしめた。
なんか…慣れてきたかも…
人目もだいぶ少なくなったし、今ならいいかな、と思った零也は少しの間その至上の感触に身を任せた。
「ご飯、冷めちゃうね!食べよう」
「あ…」
つい、自分から離れた、ゆたたんが名残惜しくて、それが口からでてしまった。それを見ていた散葉は目を丸くした。そしてすぐに満面の笑みに変わった。
「大丈夫、部屋に戻ったらいくらでもしてあげるから…ね?」
「あぅ…」
赤くなった零也を『いや~ん、かわいい~!』とか言いながら抱きしめたりしていると、轟音が響いた。
ごーん。
ごーん。
地面すら揺らして、時計塔は鐘を鳴らした。
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