プロローグ

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プロローグ

「ああ、また」  顔を上げ、少女は振り返った。さらさらと癖の無い長い黒髪が彼女のまとった優美な着物の上を零れ落ちる。  視線の先に広がるのは茜色に染まったどこまでも続く雲海。  だが、外を覗うように視線を向けてはいるが、彼女がその美しい光景を見ることは叶わなかった。彼女の瞳は白い包帯で覆われ、その瞳の色も、表情も伺い知ることは出来ない。  四方をガラスで囲まれた閑散としたフロアは暮れゆく空の中、同じように茜色に染まっていく。 「――崩れる」  西の空へ顔を向け、かすかに聞き取れるほどの声で彼女は呟いた。  その背後に長く伸びる影の中、無機質で硬い床の上に座り込んだ少年は俯いていた顔をあげ、彼女の視線の先へ目を向けた。 「……」  強さを増す夕日の光に僅かに目を細め、白いコートを着た少女と同じ黒髪の、その少年は無言でそっと立ち上がり、少女の後姿に目をやって眉間にしわを刻んだ。  自分は、許容できないと示すかのように。  その気配に気づき、少女は口元に笑みをのせる。困ったように。  地上に住む人々は、この遥か天空に自分たちがいることなど知らない。  誰もこの美しくも、冷たく重い閉ざされた場所を知らない。
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