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神無月はナイフを両手で握り、結に一瞬笑みを見せた。
ほんの僅かな躊躇いもなく
ナイフは勢いよく、神無月の胸の中心を貫く。
赤く染まる銀の刃
白い指
血を吸い重たくなる服の布地。
チャイナ服で死ぬなよ
ケイがそんなことを言ってきそうな気がして、何とはなしに、幸せな気がした。
悲しんでくれるなら
理由は何でもいいと
思っている自分は滑稽だろうか。
「なっ!?」
あからさまに動揺した結が、神無月を睨んだ。
未だ倒れず立ったまま、神無月は結にもたれかかる。
そっと、結の手を取り、ナイフを握らせた。
「あなたが、引き抜くのよ」
きれぎれになりそうな息を無理矢理繋いで、言葉を続ける。
「人や自分を通してではなく。自分の手で、命のやり取りをなさいよ。この結末はあなたが私に与えたものよ、逃がさないわ」
神無月の言葉を飲み込めず、ただ握らされたナイフに目を落とす。
「私を殺せば、ケイは死なないわ」
「何?」
聞き捨てならない。
結は眉をしかめた。
「ふふ、ケイね、私が好きなのよ?……あいつ、馬鹿だから。私がドミノゲームと無関係になった今、ここで私があなたに殺されれば、逃げ出さないわ。あれで、格好いいとこあるから」
きっと、気付く筈だ。
神無月が死を選ぶ選択肢を与えたのは間違いなく、結が語った真実で。
その選択でしか、神無月は結を止められなかった、と。
なら、ケイは死ねない。
犠牲の上に立ってなお、自分さえ犠牲になればいいなどと考える人間ではない。
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