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「このっ……」
心底憎いと言わんばかりの形相で、結は息なのか声なのか分からず音を吐く。
結果それは言い切れない言葉となって形になった。
「逃がさないわよ?」
美しい笑みを浮かべ、漆黒の瞳が結を捉える。
「あなたにある選択は、分かるかしら?」
血が結の指や腕を伝い、温いあたたかみを与える。
死を感じさせる色匂い温度。
「ここで私を助けてもあなたの負け。私を殺しても、あなたの負けよ」
「……助けたあとに私が死ねばいい話だわ」
「いいえ。ならばあなたが死ぬより早く私は死んであげる。どちらが早く死ぬかの確率は見れば分かるでしょう。そうしたら、あなた、死ねる?」
何を馬鹿な。
そう吐き捨てようとして、止めた。
死ねない。
「私の死によって、生きる選択をするかもしれないケイの意志を確認もせず、あなたが勝手に、死ねるのかしら」
そうだ、死ねない。
結だって、ケイが好きなのだ
どうしようもないほどに。
ケイの意志を、願いを疎かには出来ない。
「あっ……」
震える体、声。
「そ、そんな……そんな、唯一の、救いがっ!」
嘆き叫ぶ結は、ナイフから手を離せず硬直している。
「救い?」
神無月が嘲笑う。
「何が救いで何で救われるかは、本人が決めるのよ、知らないのかしら。……このあなたが作り出した下らない救いは、誰の為でもない」
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