その先に

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「あなたの為だけの救いよ」 赤く染まる空 赤く染まる命 赤く染まる 世界は。 ただ一番に愛しいあなたの為の 希望になる。 「こんな残酷な希望で」 神無月は儚げに笑った。 まさに、消えかかる月の光。 「ごめんなさいね、ケイ」 涙を一筋。 流したのは 何故。 「いやだぁぁぁぁっ!!」 結の泣き叫ぶ声が響き渡る 赤く赤く染まり行く世界に。 泣かないと 決意したのは、誰の為でもなくケイの為。 最後まで泣かずに、笑顔で死を招いて ケイに安らかな死と言う救いを与える為だったはずなのに。 神無月が この女の命ひとつが ケイを救うなんて いやだ 嫌だ イヤダ。 ダッテソレハスクイジャナイ。 「お兄ちゃぁん……」 どうしようもなくて、この残酷な世界、唯一愛している者の名を呼ぶ。 「いやだよぉ……私、こんなっ……」 倒れ意識を失った神無月の胸にナイフがないのを視界に捉えたのは偶然だった。 自分の指がナイフの柄を握っている。 神無月の胸からは止めどなく血が流れ続けていた。 「……あ」 動く思考能力はもうない。 ただ分かることは 今は彼女を死なせるわけにはいかない。 それだけは。 「……ごめんなさい」 吹き抜けた風は 思いのほか、優しかった。
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