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どんどんと山奥に入っていく。 確かにこちらから視線を感じた。自分でも分からない。 そんなに気配に敏感でも、第六感を持っているでもない。 だが、確かに分かる。 確かに誰かが千早を“見て”いる。 そして、その視線は千早を“呼んで”いる。 急に山が開けた。 村全体を見渡せる、二つの塚がある見晴らしの良い場所。 「……弐塚の頂…」 言い伝えによればその昔、村を守った二人の鬼がここに眠っているらしい。 右に赤鬼、左に青鬼。 その塚の中心。 御神木の様に植えられた木の幹に寄りかかるように立つ一人の少年がいた。 どことなく影がある、美しい少年。 その綺麗に釣り上った目は、確かに千早を見ていた。 「………………」 千早はその少年に見覚えがあった。 数か月前、転校してきた他クラスの少年。 容姿のお陰が女子の興味を一手に引き受けていたのを覚えている。 「弓槻…くん」 「………」 弓槻直尋(ゆづきなおひろ)は凭れるように寄りかかっていた木の幹から体を離した。 「お前が、もう一人の鬼。“赤の鬼”か」 「……え?」 「俺は“青の鬼”。故あってこの地を離れていた。赤よ、気をつけろ。敵は、すぐ傍にいる」
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