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「何をそんなに焦っているのかは知らねえ。だが、落ち着け」 いつもの陽気な礼一がまるで嘘のように静かな声で千早に語りかける。 これが、礼一の本質だとでもいうように。 千早の座っているベッドまで歩くと、一つ溜息をついた。 「はぁ。まったく、心配して来てみれば。思ったより元気そうじゃねぇか。安心したぜ?」 「小太刀先輩、弓槻君に背負われた意識のない千早ちゃんを見て、私よりおろおろしてたんだよ?」 「うるせぇよ! 美里! 余計な事を言うんじゃねぇ!!」 からかう美里に真っ赤になって言い返す礼一は、千早が見慣れたいつもの礼一だった。 「んで? 何で弐塚の頂に行って、倒れて、あのいけすかない転入生に背負われてきたんだ?」 「いけすかない転入生って…」 「当たり前だろ!? あいつ、俺より一つも年下なのに、185cm近くもあるんだぜ!?」 「なんだ、ただの逆恨みか」 「でも、何で身長知っているのかな?」 「それは俺が保健委員だからだ。身体測定の時に記入していたんだよ」 いつも通りの会話。 先ほどの礼一は気のせいだったのか。 千早は頭を振り、違和感を振り払った。 「どうした、千早? 急に頭を振って」 「ううん。なんでもない。あのね、何で私が弐塚の頂に行ったのかは、自分でも分からないんだ」 「はぁ!? 何だそら!?」 「先輩。黙っててください」 「それでね――――」 直尋との会話などは抜いて話す。 この二人に聞かれて、余計な心配などかけたくないからだ。 千早が倒れた理由は寝不足による貧血ということにしておいた。 直尋のことは通学路で倒れていたから運んできてもらった、といった。
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