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そう 明智が此処へ来たのはこれが初めてではない。
今日のようにふらふらと木立から姿を現し、元就とほんの少し言葉を交わしてまたふらふらと木立に戻っていく。
そんなことが度々あった。
それ故に、そろそろ慣れたと見える毛利は然程気にもせずそう言った。
事実、病人のような明智は確かに気味が悪い風貌であったし、本人もそれ程までに気にしている様子も無かった。
「毎回毎回同じことを…つまらない人だ」
「ならばもう此処を訪れる必要は無かろう」
御尤もな返答に、明智は思わずくつくつと喉を鳴らして静かに笑った。
それは、戦場で死神と呼ばれる男が、数多の悲鳴を切り裂くように笑う、あのいつもの笑いとは違っていた。
冷たい、でも優しい何か。
「…何がおかしい」
「いえ、何でもありません…尤もなことだ、と思っただけですよ」
「……そう思うのであればもう二度とその面を見せるでない。早々に立ち去れ」
そう言って毛利はくるりと向きを変え、城に戻ろうと歩を進め始めた。
「元就公」
ふいに呼ばれて振り返ると、そこには
日光を浴びて真っ白に光る真っ白な深い闇、白い死神が
此方を向いて、その風貌に似つかわしくない優しい笑みを浮かべて立っていた。
一瞬、氷の面を被っているかのように無表情だった毛利の顔に驚きと困惑の色が浮かんだ。
が、すぐさま先ほどのような無表情に戻り、
「何だ」
と訊ねた。
「有難う御座いました。きっとまた来ます」
先程二度と来るなと言われたにも拘らずそう言うと、真っ白な死神 明智光秀は、来たときのようにゆっくりとした足取で、再び出てきた木立へとふらふらと戻っていった。
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