愛し君へ

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      「漸く引いたか…」   少々の疲労を覘かせた表情で緑色の特異な鎧を纏ったその人は呟いた。   遠くに下がり藤の紋の旗を掲げた一団が撤退していくのを、毛利軍が総大将 毛利元就───彼はたった今まで、毛利の水軍を奪うべくやってきた豊臣軍と戦をしていたところだった。   いくら自軍の兵を捨て駒のように扱っているとはいえ、彼自身が戦場に赴かなかったわけではない。 周りに転がっている毛利、豊臣の一般兵の躯や、半生半死のまま呻き声をあげている者達をその眼で確認し、その場に居た──まだ戦えるだけの状態を保っている兵達を率いて、元就は本陣へと身を翻した。     各武将も兵達も、元就自身でさえもこの戦に尽力し、毛利軍には疲労の色ばかりが浮かんでいた。       生きた者全員が本陣へと戻ると、誰もが溜め息や安堵の声を洩らした。   ただ一人、元就だけは自分のプライドに掛けて気を緩めることはしなかった。     「元就様、今後はどのようにいたしましょうか…」   武将の一人が、少々緊張気味に尋ねた。   「皆が、我ですらもが疲労困憊だ…少々の間…そうだな、1~2日前後この場で休息を取り、その後は──回復の程にもよるが──警戒を緩めずに城へと戻ることにする……」   額から流れるように落ちる汗を拭いながら、元就はそう答えた。   豊臣は撤退した。 自分の軍のように、向こうも大きな被害を被り、疲労困憊しているはず…。 少しの間、ここで疲れを軽減させようとも───勿論油断はならないが───襲ってくるものはいないだろう、と、元就はそう思っていた。       しかし、その緩んだ考えはすぐに覆されることとなった。      
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