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その日の夜遅く。
戦支度を整え、万全の状態を保ちつつ、僅かの間の休息を噛み締めていた毛利軍…。
本陣の最深部に位置する総大将の椅子に腰かけ、今後についての考えに耽っていた元就。
幕を幾つも隔て、孤立した空間に居た彼がふと視線を上げると、その幾枚も重なっている幕の向こうからこちらへ向かってくる影が見えたのを認識した。
自軍の武将───それにしては背が高い…。
武将や兵達には鎧を着用しておくように言ってあるので、あのように細身なはずも無い。
一体誰が─────
「こんばんは、元就公…」
幕1枚──布切れ1枚と言ってもいい──その向こうから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
まさか。
「貴様…何をしにここに来た……」
元就は幕を捲ってその全貌を覘かせた人物に問いかけた。
そう、織田家家臣 明智光秀に。
「少し…知らせねばならないと思われることがありまして……突然の訪問を、失礼致します」
そう言って、光秀はいつものようにゆらりゆらりと歩を進め、元就の少し手前で止まり、膝をついた。
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