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「どのようなことであろうと貴様の事には我に関係などは無い」
疲労で苛々としている元就は冷たくそう言い放った。
しかし光秀は食い下がらずに続けた。
「明日の夜、ここ毛利の本陣を織田が奇襲をかけます」
光秀がそう言うと、先程は関係など無いと言った元就もはっとして顔をあげた。
「何だと…?」
少々の動揺と驚き、そして濁った怒りをその顔に浮かべて元就が光秀を睨む。
冷たい視線で、相手を刺すように。
だが、光秀はそんな眼には慣れた様子で次々と言葉を紡いだ。
「…貴方の軍は疲れ切っている。勿論、貴方自身も。ですから、急ぎ撤退をするように、と思い、突然ながらこうして馳せ参じたのです」
淡々と話を続ける光秀。
しかし、話しながらも元就の顔を見ていたその視線は、次第に地面へと移っていった。
「撤退…?我に負けを認め、尻尾を巻いて逃げろと…?貴様…我を愚弄する気か……」
感情を抑えきれていない声で、それでいて静かに元就が返答をすると、地面を見つめていた光秀はふっと顔を上げ、真っ直ぐな瞳で元就の眼を見据え、
「…撤退していただけないのなら、仕方ありません……無理強いは致しません。貴方ならきっとそう仰ると思っていましたし……」
と言った。
何か決意を秘めたその瞳に気押されて元就は動揺した。
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