愛し君へ

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      「な…それなら初めからわざわざこちらに赴く必要は無かろう…!」   動揺と怒りとが混ざった、何とも言えない感情を抱きつつ、元就は大きくはなく、されど少々荒げた声でそう言った。   確かに、初めから分かっているのならわざわざ報告にやってくる必要は無い。 しかし光秀は、何か自分の中での決意を固めるためにこうして報告に来たに違いない。 そう思って、ふと冷静さを取り戻し気味に元就は続けた。   「…本当の目的は何だ。申せ」   元就の声がいつもの調子に戻ったのを確認すると、光秀もまたいつものような薄気味悪く冷たい…それでいて元就には温かくもとれる笑みを浮かべ、   「…いえ、目的は本当に先に申し上げた事だけです……」   と言う。 それまでの日々で幾度となく自分の前に顔を出しては特に変わった様子もなくふらりと去っていく…その"今までの光秀"とどこか少し違和感のある"目の前の光秀"。 一瞬、何とも言えない不安を覚えた元就は、冷やかにも暖かにもとれる、しかし表情には出さぬ、そんな声色で   「…ふん…我は疲れておるのだ……貴様の相手などしてはおれん。…また城にでも来るがよい……」   と言い捨てた。 そして総大将の一室のように囲われている幕を潜って、光秀のもとから去ってしまった。 あとに残された光秀は、その銀色の髪に顔を隠し、もう声も届かない場所に去ってしまった人物に───先程まで目の前に居た毛利元就に───届かないと分かっていて、ぽつりと呟いた。           「…今まで色々と、本当に有難う御座いました……さようなら、元就公──」        
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