愛し君へ

6/7
前へ
/7ページ
次へ
      その翌日から2日後のこと。 元就は光秀からの告知について警戒を強めていたが、結局織田の奇襲は無かった。   そして安堵の表情を少し覘かせながら、高松城へと帰還した。     「お帰りなさいませ、殿」   城に残っていた家臣達が強張った表情で幾人もがそう言ってきた。   「して、今回の戦…豊臣はどうされましたか?」   兜を外し、鎧を脱ぎ、一国の殿としてその場に元就が現れると、城に残っていた家臣の一人が尋ねた。   「ふん、長戦にはなったが奴らは撤退していきおったわ。それよりもあの明智光秀…織田が奇襲をかけてくるなどと口から出まかせを言いおって……」   疲れと呆れと少しの怒りの入り混じった表情でぼやくように元就が言うと、家臣から思いもよらぬ事が告げられた。         「殿、織田は明智光秀の謀反によって本能寺にて落ちたと聞いておりますが……」       思わずその家臣の胸倉を掴み、     「何だと?!」   と、声を荒げて元就は問い質した。         そして恐れ慄きつつもそれについての家臣からの報告でその全貌は明らかとなった。       元就のもとに光秀がやってきたあの晩──。 その翌日の日没とともに明智光秀率いる明智軍が、奇襲をかけまいとして本能寺にて休息をとっていた織田軍に謀反を起こしたらしい。 本能寺は、光秀が自軍の者達に放たせた火によって燃え上がり、そして焼け落ちたという。 そして、誰一人として信長、或いは光秀がその炎の中から帰ってきたところを見ていないとのことだった。       その話全てを聞き終え、あの晩に何故光秀が自分のもとにわざわざ告知にやってきたのか、その理由を悟った。     自分の代わりに犠牲になる為に、その意志を固める最後の手として、自分のもとにやってきたのだ、と。      
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加